吉満菓子店物語

二代目の匠の技と志を伝承してゆきたい

吉満菓子店 三代目
工場長 東 英司 代表 東 由美子

創業大正十五年。鹿児島市甲突川河畔で熟練の技を父から受け継ぎ磨いてきた二代目菓子職人・吉満正之。和菓子にとって水は命。河頭(こがしら)浄水場近く、清冽な水の豊かな菓子作りに適した一帯。二代目・吉満正之は昭和十八年生まれ。高校時代から実家の菓子作りを担い、卒業式に出席もせず、家業の菓子配達をしていたとか。

初代は煎餅や飴、型菓子、そして薩摩の伝統菓子である軽羹、高麗餅、木目羹など多彩な和菓子職人。現在も残る鯛やエビなどの木型は棟上げのお祝い菓子に使われたものだとか。貴重な菓子作りの道具は今も大切に保存されています。

物心ついた時から菓子に触れ、感性と技量を培った二代目は、新たにケーキやクッキーといった洋菓子、そして「鹿児島の黒」をテーマに、黒糖の風味が効いた丸ぼーろを作りはじめました。当時、「ぼーろん」という名で親しまれ、遠方から買い求めにわざわざ訪れるファンも多くいました。

二代目は、オーブン棚や黒糖を砕く刃物を特注するなど、旺盛な創意工夫と厳しい匠の精神の持ち主。菓子製造のバイブルのような分厚い本を肌身離さぬ勉強家でしたが、高齢のため閉店する覚悟をしていました。

素朴で親しみやすい美味しさをそのまま伝承したい

そんな最中、久しく好んで食べていた現在の三代目菓子職人・東英司は「このまま絶やすのは忍びない」と丸ぼーろ作りを引き継ぐことを決意。「素朴で親しみやすい美味しさをそのまま伝承したい」と二代目の下で修行を重ねました。

三代目・東英司は大阪のホテルでの調理師修行の7年間を皮切りに、イタリア料理、鹿児島城山ホテルでも洋食シェフとして活躍。永年培った腕前を、現在は丸ぼーろ作りに傾けます。

きらびやかな菓子が世を賑わせている時代に、黙々と手の感覚を頼りに生地を練る。二代目の薫陶を受けた技に一心に向かう。夫唱婦随の丸ぼーろは、吉満菓子店の代表銘菓として、これからも皆様に愛される菓子を目指します。